早川俊二 メディアの記録 2015、2016年

『北海道新聞』8月13日

淡く柔らかく幻想的に  早川俊二さん札幌で初の個展     久才 秀樹

 

 長野市出身でパリ在住の早川俊二さん(65)の個展「遥かな風景への旅」が札幌市のHOKUBU記念絵画館(豊平区旭町1)で開かれている。

 同絵画館の小西政幸館長が、東京のギャラリーで見た早川さんの絵に感銘。今年6月に長野で個展を開催することを聞き、札幌にも巡回することを企画した。

 早川さんは1974年に油絵を学ぶためパリに渡り、国立美術学校に入学。そのままパリを拠点として制作活動を続けている。

 札幌展の作品はすべて個人蔵で、人物や静物など27点が並ぶ。コットン生地を張り、分厚くなったキャンバスに、さらに幾度も絵の具を塗り重ねている。一見、削られたような荒々しい筆致だが、淡く柔らかい作品に仕上がり、幻想的な世界をも生み出している。作品の四隅をわざと塗り重ねず、欠けたようにしているが「絵は(人物や物)をそのまま写すものではない。絵はイリュージョンとの思いがある」と狙いを話す。

 10月4日(日)まで。木曜から日曜まで開館している。入場料は高校生以上300円、小中学生200円。問い合わせは同絵画館☎011/822/0306へ。

                                           

2015年8月13日 北海道新聞掲載


ラジオ『HBC北海道放送 多恵子の今夜もふたり言』9月20日

  多恵子版です。秋の連休、どのようにお過ごしになりますか?予定を決めずその日のお天気や気分、起きた時間も関係あるでしょうね、きっと。それによって行動する。こんな一日、時間があってもいいでしょうね。 

 

 先週地下鉄東豊線に乗って、学園前駅で降りて1番出口から地上へ出ました。初めての駅なんです。さすが学園エリア、駐輪場も含めて自転車の通行が多いなあと思いました。どっちに歩こうか?私迷子になってもわりとビビらない方なんです。ここは札幌でしょ、ここは北海道、日本でしょ。外国に旅行中だとここは地球だし、とこう思うようにしているんです。

 

 さて、この日の街歩きは絵画鑑賞が目的でした。友人夫婦の勧めで、学園前駅から歩いていける北武記念絵画館へおじゃましました。こちらは美術館というよりも邸宅を尋ねるという感じの建物で窓にはステンドグラスがはめられたりしています。

 

 ここで10月4日まで開催中の「早川俊二展・遥かな風景への旅」を見てきたんです。とても素敵でした。画家の早川俊二さんはパリ在住の方、長野県の出身で札幌では初の個展になるそうです。色に引かれたんです。作品は女性像やティーカップなど静物が主でした。明るい水色帯びた透明感あるグレーの色彩、イメージしていただきましたでしょうか?それから土系の暖かな色合い、女性の像などは淡くて柔らかくて、この色彩が幻想的でより美しく感じられるんです。

 

で説明書きによりますと、あの、長い間練り上げて作り出した独特の油絵具なんだそうで、殆どの作品を筆ではなくてペインティングナイフで描かれているということでした。「わあーすごい!あの、映画を見るとき私一人がいい」とお話するんですけど、絵を見るときあなたは如何でしょうか?

美術館は余り大きな声でしゃべれませんよね。一緒に行く方がいても、これらの絵は一人、一人がね、一つ、一つ、一作品、一作品ずつ見ていただきたいなぁと思いました。描かれた女性像が絵画から抜け出てきそうな気配すらします。全部見終わってゆったりとしたギャラリーの中のソファにかけて、好きな絵に囲まれてスタッフがいれてくれたコーヒーを頂きました。画家に招かれたような気がしました。

 

北武記念絵画館は豊平区旭町一丁目にあります。オープンは木金土日、朝の10時から夕方の5時まで。入場料は大人が300円、小中学生は200円です。スリッパに玄関で履き替えます。ギャラリーは2階と3階。エレベーターがあります。是非どうぞ。

 

HBC北海道放送、河原多恵子アナウンサー


『新潟日報』文化欄シリーズ「展覧会へようこそ」 11月4日

展覧会へようこそ 遥かな風景への旅 早川俊二展(砂丘館)

石のような質感の絵肌                     大倉  宏

  

 砂丘館で29日から始まった早川俊二展は、今年の6月長野市で開かれた展示の一部を巡回したものだ。

 その長野展の開催経緯は、聞けばまことに不思議だった。

 40年もパリにいる早川さんの、小学校の同級生のひとりが、90歳を超えた早川の母に会い、「フランスに行ってくる、と言って、行っちまっただわねぇ・・・」というつぶやきを聞く。彼女の元気なうちに「俊二くんの活躍している姿を見せたい」と思い、同級生仲間に呼びかけ、故郷の会場で実現した手作りの展覧会だったのだ。

 その会場で接した早川の絵も不思議だった。絵の姿の石が壁に並んでいるように見え、描かれた人やコーヒーミルやつぼが、その石が見ている夢が浮きだしているように思えた。

 長野での少年時代に画家を志し、東京、ついでフランスの美術学校に学ぶ。しかし感じるところがあって、制作を絵の具、キャンバスをすべて手づくりするところから始めたという。そうして生まれた絵に、石の重みがそなわった。

 この重みを生み出しているのが、独特のマチエール(絵肌)であると同時に、のみの鋭さをもつ筆触だ。筆は描くというより、画家が生み出そうとする重みに向かって必死に、格闘している。重ねて描かれる人やコーヒーミルが、その結果として、「石の見る夢想」めいた気配を帯びてきたのではないだろうか。

 私が初めてヨーロッパに行き、大きな古い町に入りこんだとき、石で囲まれた空間の、日本とは異なる質感に驚いた。40年フランスにいて、早川が生み出すことになったこれらの絵が石を思わせるのは、同じあの驚きの体験を、彼もまた始点に抱えたからかもしれないと思う。

 長野も札幌も酒田も、ほかの巡回会場にはみな石ならぬ、鉄筋コンクリートのホールで、新潟だけが昭和初期の木造住宅の和室と蔵だ。堅牢な絵たちが、木の空間に初めて放り込まれる。木と山の国長野生まれの画家の手から、石の都市で誕生した絵たちが、いったいどんな表情を見せるのか。会期中に新潟を訪れる早川も楽しみにしているという。

 

美術評論家、砂丘館館長

 ■新潟市中央区西大畑町の砂丘館で30日まで開催している。7日午後2時から作家によるギャラリートークがある。


『新潟市中央区だより』11月15日


『US新聞ドットコム』12月5日 コラム「Kuniのウインディ・シティへの手紙」

日本家屋に現代美術を飾る~新潟砂丘館の早川俊二展・新潟絵屋にて   馬場 邦子

 

11月、新潟砂丘が作り上げた坂の上に位置する西大畑地域の日本家屋や塀に燃えるようなオレンジと黄色の木の葉が重なり合って、しんとした空気を醸し出す。

 

新潟市美術館、この地に生まれた坂口安吾の「安吾 風の館」、會津八一が晩年居住した北方文化博物館新潟分館、新潟三大財閥と言われた豪商のお屋敷だった旧齋藤家別邸などの時代を経た文化的なたたずまいが点在するせいであろうか。

 

「どっぺり坂」と石碑に大きく出ている坂の階段を上ると、塀に囲まれた旧日本銀行新潟支店長役邸という威厳あるお屋敷が右手に見える。

 堂々とした古めかしい門が開け放たれ、我々を文化空間に導く通称砂丘館の書院作りの玄関が迎える。

 

真横のあいづ通を抜けると目の前に日本海が広がる。

砂丘館は、その名にふさわしく、日本海に面した新潟砂丘の上に1933年(昭和8年)に建てられ、8代から37代までの日銀支店長が住んだ歴史的建造物である。(砂丘館パンフレットより)平成12年から一般公開され、平成17年から新潟絵屋・新潟ビルサービス特定共同企業体による管理・運営がスタートし、芸術・文化施設として生まれ変わった。9時から21時まで開館していて、入場無料。

 

11月7日、パリ在住画家の早川俊二展を観にこの砂丘館を訪れた。

玄関の畳の間の純日本的な黄色い菊の生け花に迎えられて、靴を脱ぎながら、「伝統的な日本家屋にはたしてパリで育まれた早川絵画がなじむのか」と思案しながら受付に行くと、受付の後ろに女性像の作品がさりげなく2つ並んでいる。

 

早川絵画の吸引力に吸い込まれそうになるのを抑えながら、横のソファ・テーブルのある洋間の応接室に入る。「茶寮六華」というカフェになっている部屋で、よく眼をこらすと、2点の早川氏の静物画の小品が壁にかかっていている。

 

地肌のリズムの波長がやや模様がかったベージュの壁に溶け込み、あたかも初めからそこにあったかのように存在している。絵の中の壺やティーポットが古いタイプライターやラジオ、茶色の小さな鞄が置かれたレトロな部屋に見事に合っている。

 

安堵しながら、高まる胸を押さえて、4畳半の控室へ向かう。

薄暗い和室に天井から一つ電燈がともされ、上品で落ち着いたタンブラーと茶の地肌から抜け出てきたような女性像の絵画が床の間に展示され、上質で粋な空間を生み出している。女性像の横には、開け放たれた木の格子の白いガラス戸からの自然光がほのかに抜け、絵の主張を抑えているように感じられる。

 

パリで長年醸成された西洋文化と東洋文化の融合がひっそりと息づいている。

時が止まったかのような空間に一人たたずみながら、絵の先に見える中庭の木々の紅葉で我に返る。

 

この砂丘館は15もの部屋が入り組んでいて、迷ってしまうほどだ。「雁行」と呼ばれるずらした部屋をつなげて、庭を多様な視点から眺める工夫が施され、接客・生活空間とサービスヤードが明確に区分されている。(砂丘館パンフレットより)庭はエノキ、マサキ、モミジ、10数本のクロマツなどが植えられ、灯篭と縁先とで日本情緒を演出し、その広すぎない外の空間と家屋の展示空間とのほどよいバランスが保たれている。

 

全面ガラス戸に面した細長い中廊下を抜けた一番奥に2階建ての蔵があり、砂丘館のメインギャラリーとなっている。この蔵は、非常時に日銀支店の役割をはたすよう準備された堅甲な白いコンクリー外壁の建物。

 

戦中戦後の激動の時代の新潟を見続けてきたであろう蔵が芸術の受け皿となって、時には海外のアートも取り入れながら、人々の文化意識を高めてくれる。2005年から始まった砂丘館の文化活動だが、蔵ギャラリーでは年間6、7回の企画展が開催され、時には作品の前でコンサートライブ、ダンスパフォーマンスなども行われ、現在と過去の異文化のぶつかり合いが面白い。

 

日本間では絵画を鑑賞しながらの茶会やヨガなどの市民の文化活動にも利用されている。詩の朗読、写真講座などの芸術文化や生活文化などのセミナーも催されている。最近は若者が砂丘館をコスプレ撮影場所にも利用するという。

 

蔵のギャラリーに入ると、一瞬ドラマにでてくるような大正・昭和の時代の1シーンに早川絵画と共にタイムスリップしたような感覚を味わう。

 木の柱と床が早川絵画の基調の茶色と呼応し合って、対象を引き立たせる。

 魅惑の女性像は勿論、今まで目立たなかった静物画の壺やコーヒーミルまでもがふわりと浮きだしてくる。

 

長年の個展場所である東京のアスクエア神田ギャラリーでは真っ白な壁に作品が並べられ、静謐空間を作っていた。 しかし、こういう木を基調とした伝統的な空間でもパリの乾いた空気を吸って生まれてきたであろう早川作品も合うのだと感心し、訪れた人々が口々に「早川作品と合う!」「溶け込んでいる!」と感嘆の声を上げていた。

 

 この日は砂丘館の居間とお座敷で、館長の大倉宏氏が聞き手となって、早川俊二氏のギャラリートークが行われ、全国各地から早川ファンがかけつけた。早川氏の生い立ちから東京の美術学校時代、そしてパリに渡ってから国立美術学校で彫刻家マルセル・ジリの下でデッサンにあけくれたことなどを早川氏が詳しく語った。大倉氏によると、和室は離れた展示だが、蔵は同じ空間なので展示が難しく、じっくり考えながら、パネルをつけたりはずしたりして一番時間をかけるという。

 

「(砂丘館に展示して)作品が違って見えるとみんな言う」と大倉氏。

 10年間の経験でいい作品であればいい展示ができるが、展示が難しい作品もあり、置いてみて入れ替えもやるという。 試行錯誤をして作品を入れ替えながら、部屋と作品が化学反応を起こし、部屋の空気感も変わるという。控室の2点の早川作品は2回展示を替えて今の展示におちついたという。

「場所が持っている空気感と表情もあるので、両方の関係をさがすという感じでベストな飾り方に時間をかけていつも考えている」と大倉氏は言う。

 

砂丘館は2005年よりNPO法人新潟絵屋が企画運営をしていて、ギャラリー運営をしている新潟絵屋は、砂丘館とは兄弟関係で広報誌やホームページでの告知活動や時には個展も一緒に行っている。この新潟絵屋とは、2000年に大倉氏が発起人で10人の有志で始まった画廊で、会員制度による会費・寄付金で経営の一部をまかない、自由な視点で構想される企画展をめざしている。現在約200人の会員で、月に3回ほどのペースで企画展を開催しているというから驚く。

 

1985年から5年間新潟市美術館の学芸員をした経験から、大倉氏は「美術館は小回りがきかず、公費を使ってやるのでいろんな理由づけが必要。すでに評価が定まったアーティストを紹介する性格もある。でも、ギャラリーは自分たちで紹介したい作家を比較的すぐに人々に展覧会を無料で観てもらえるというパブリックな文化活動という面もすごく持っている」と語る。

 

大倉氏は公立美術館をやめ、その後10年間美術評論などをしながら、古い民家を見に行ったりしているうちに、民家に絵を飾るということをしたくなったという。仲間と古い家並みを散策したり、町の魅力を知るシンポジウムを開催したりした準備期間をへて、大工、家具職人、雑誌の編集人、写真家などの職業の違う仲間たちと民家を改装したギャラリーを造った。当時新潟には画廊も少なかったというのも自分たちの画廊を設立するという原動力にもなった。

 

大倉氏に連れられて、中央区上大川前通にあるこの新潟絵屋にもお邪魔した。車が通る広小路に大正時代の町屋を改装した建物がひょっこり現れる。

(絵屋全景: 新潟絵屋HPより http://niigata-eya.jp/)

 

柱、土壁、格子戸、欄間などのやわらかでなつかしいぬくもりに包まれた部屋に絵が展示されている正真正銘のギャラリーだ。あえて「昔の日本家屋に現代美術を置いてみたらどうなるか」という実験を楽しんでいるようにも見える。

新潟絵屋HPのブログよりhttp://niigataeya.exblog.jp/

 

大倉氏は、家とアートの関係も考えながらこの絵屋を造ったという。

 「床の間のある日本の伝統的な家では墨絵や掛け軸が定番だった。元々日本にない画材や描き方の違う西洋文化はいまだに日本の家屋にしっくりこないし、しっくりさせようと努力していない部分があると思う。自分がやっているのはそういう努力の一つ」と言う。

 日本家屋のしつらいは素晴らしいのに、建てる人も観る人も絵をどう飾るかは考えていない中、絵屋や砂丘館での工夫された展示方法によって、はっとするような空間が生み出され、同時に自分の家に作品を飾るイメージもわいてくる。 絵屋での精力的な展覧会活動経験が土台となって、砂丘館というより大きな歴史的建造物での文化活動に生かせたという。

 

砂丘館での工夫をこらした展示によって作品の印象がいい意味で変わったことに早川氏がこう言及する。

「僕の絵はヨーロッパっぽいでしょ。今までずっと作品を人が買って家になじんでいるか非常に気になっていた。今回の展覧会も典型的な日本家屋で木のような物に硬い石のような僕の作品が合っているか心配だった。しかし、想像以上の結果で、効果が見られた。これなら石を壁に飾って大丈夫だと自信を得た」と語る。

 

展覧会に行っても常に作品を観ることだけに集中して、それらの作品を家にどう飾るのかは今まで考えたことがなかったので、今後意識していくと作品を観る視点も変わっていくかもしれない。そして、日本の伝統的なものに西洋文化を工夫して展示するという大胆な試みは、鑑賞者をいい意味で驚かせながら、アーティストにも自信を持たせる結果となったようだ。

 

なお早川俊二展は1月に山形の酒田市美術館に巡回する。

●日程: 2016年1月5日~1月26日

●場所:酒田市美術館

     〒998-0055 山形県酒田市飯森山3-17-95

●開館: 9:00-17:00 月曜休館・祝日の場合は翌日

TEL: 0234-31-0095

FAX: 0234-31-0094

HP: http://www.sakata-art-museum.jp/

●砂丘館:9:00-21:00 月曜休館・祝日の場合は翌日

〒951-8104 新潟市中央区西大畑町5218-1

TEL & FAX: 025-222-2676

Email: sakyukan@bz03.plala.or.jp 

HP:http://www.sakyukan.jp/

「遥かな風景への旅 早川俊二」展は11月29日まで

●NPO法人新潟絵屋: 11:00-18:00 各企画とも最終日は午後5時まで

〒951-8068 新潟市中央区上大川前通10番町1864

TEL&FAX:025-222-6888

Email: info@niigata-eya.jp 

HP: http://niigata-eya.jp/

 

文責:馬場邦子 写真撮影:馬場邦子・大倉宏・新潟絵屋


『新潟絵屋Blog』11月28日

茶色について 早川俊二展     大倉 宏

 

 明日(11/29)で終了する早川俊二展は、長野(6月)札幌(7~10月)と旅をして、新潟のあとは酒田(2016・1/5~26 酒田市美術館)に旅立つ。

 他の会場は、どこも鉄筋コンクリート造りで、長野市の北野カルチュラルセンターは、天井もおそろしく高い大ホールで、その3階まで絵が並んでいた。なので、絵が大きいなと思ったものの、実感がわかず、新潟に出品の絵はかなりしぼらせてもらったにもかかわらず、到着してから、その大きさにあらためてびっくりした。結局、大きな作品を数点未展示とした。絵と絵の間をそれなりにあけて、砂丘館の建物と絵の関係を大事にしたいと思ったからだ。蔵のパネルも大きな場所ははずして、柱を露出させた。絵がパネルからはみ出しそうだったからだ。

 そうして絵をかけ終わって、ふしぎなことに気がついた。見慣れた柱がいつもと違ったように見えるのだ。

 長野の展示を一緒に見た砂丘館の〈小〉さんが、早川さんの絵の「しもふり」に引かれるという感想をもらしていた。霜降りは、明色や暗色、いろんな色が小混ぜになった様をいう言葉だが、パレットナイフで何度も何度も絵の具を重ねて生まれる早川さんの絵肌は、なるほど「しもふり」である。

 ギャラリートークのとき、ちょっと点描のようでもありますね、とはやかわさんに言ったら、タッチが単調になる点描の欠点を話され、スーラは素描があんなに素晴らしいのに、油絵がつまらないのは、そのことと関係があると、目を開かされるような発言をされた。遠目では、あまり気づかなかった色だけれど、ほとんどの早川さんの絵には、茶色、または褐色が織り込まれている。

 この褐色―「茶色」が、絵の外にまで波動を広げて、柱や、床や、木造空間のあらゆる場所にひそむ茶色―褐色を共鳴・生動させているのだと気づいた。

 しかも、建築後83年を経過した砂丘館の木部(主たる茶色部分)は、汚れたり、変色したり、さまざまにきずついたりして、これもまたどこも微妙で雑多な「しもふり」になっているではないか。

 絵と建物にひそむ、茶色のしもふり同士が、ひそかに会話(チャット)を交わして、砂丘館をにぎわせていたのだった。

 ちなみに・・・褐色を茶色と言うのは、茶を染料として用いると、その色になるからだとのこと。

 酒田市美術館の壁は大理石だという。

 今度はどんな共鳴が起きるのだろう?

 見に行ってみたい。

  

美術評論家・砂丘館館長


『美術の窓』2016年1月号 シリーズ「戌も歩けばbeau(ボー)に当たる」第75回


『酒田市コミュニティ新聞』12月25日

独自な絵肌の静かな世界 パリ在住画家・早川俊二展

 

 酒田市美術館では「早川俊二の世界―遥かな風景への旅」を1月5日~26日に開く。日本画壇を離れて独自の作風を追求してきた、パリ在住の静謐な作品約60点を展示する。10日は多摩美術大学の竹田博志客員教授が「早川絵画に見る東洋性」と題し記念講演をする。

 早川は1950年生まれ。創形美術学校を卒業し74年渡仏。パリ国立美術学校で学んだ。油絵具の調合など素材や技法にこだわり、独自性を探求している。また、デッサン4点がパリ国立美術学校のコレクションに入るなど、高い評価を受けている。

 女性をはじめ、コーヒーミルやポットなど日常にあるものを対照にしながら、細かいタッチを重ねた厚く堅固な絵肌で、不思議な空間を作り出した。

 会期中、市民ギャラリーでは開館以来の特別展約130展のポスター展を開く。17日午後2時からは観世流シテ方の西村高夫が、常設展示室Ⅱの森田茂が黒川能を描いた作品の前で、能を解説し実演する。椅子席は先着40人。

 入場料は一般540円、高大生270円、中学生以下無料。月曜休館。問☎023-31-0095。


『鶴岡タイムズ』2016年1月1日

酒田市美術館 穏やかな雰囲気と深い色調 「早川俊二の世界展」開催

 

 フランス在住の洋画家・早川俊二さんの作品を紹介する「早川俊二の世界展~遥かな風景への旅~」が1月5~26日、酒田市飯森山三丁目の酒田市美術館で開かれる。パリで発表した油彩画を含めたこれまでの軌跡と、新たに制作した作品約60展を展示する。

 早川さんは1950年、長野県生まれ。73年に東京の創形美術学校を卒業。翌年渡仏し、パリ国立美術学校に学んだ。30代から独自の絵の具の研究制作に没頭、並行して油彩画に本格的に取り組んだ。81年にはパリで「ムフレ賞」を受賞。デッサン4点がパリ国立美術館のコレクションに入るなど、高い評価を受けている。

 モチーフは大きく分けて二つあり、一つはコップ、ティーポット、瓶などの身の回りにある道具。もう一つは女性のいる空間。いずれも題材と背景が溶け込んでいるような、穏やかな雰囲気の画風だが、絵の具はかなり厚塗り。同美術館では「画材にこだわった独特の深い色調を体感してほしい」と話している。

 1月10日午後2時からは、多摩美術大学客員教授の竹田博志さんが「早川絵画に見る東洋性」と題して記念講演。早川さんも同席する。定員は先着50人。当日整理券を発行する。期間中は「酒田市美術館ポスター展」を同時開催。

 また、1月17日午後2時からは「『黒川能作品』と楽しむ新春『能楽』の世界」が行われる。学芸員による作品解説と、観世流シテ方による実演がある。当日、先着40人に整理券を配布するが、立ち見も可能。

 開館時間は午前9時から午後5時。料金は一般540円、学生270円、中学生以下無料。問い合わせはTEL0234-31-0095へ。


『山形新聞』2016年1月6日

独自の質感ある洋画作品が並ぶ  早川俊二さんの個展 

 

 長野県出身で、パリを中心に創作活動を行なう洋画家早川俊二さんの作品展が5日、酒田市美術館で始まった。キャンバスの裏地に絵を描くことで独特の質感がある絵画が並んでいる。

 早川さんは1973(昭和48年)年、創形美術学校(東京都)卒。74年に渡仏してパリ国立美術学校で学び、デッサン4点が同校のコレクションに加えられるなど海外で高い評価を受けている。

 作品展では68点を展示。穏やかな表情でまどろんだり、ソファでくつろいだりしている女性、眠っている愛猫、茶わん、コーヒーミルなどを題材にした作品が訪れた人の目を楽しませている。26日まで。

 10日午後2時から竹田博志多摩美術大学客員教授の記念講演会「早川絵画にみる東洋性」が同館で開かれる。先着50人。参加無料だが、観覧券か会員券が必要。当日9時から整理券を発行する。問い合わせは同館0234(31)0095。


『荘内日報』2016年1月8日

国内外で高い評価を受ける洋画家 早川さんの作品68点を紹介 酒田市美術館で企画展

 

 国内外で高い評価を受ける長野県出身の洋画家、早川俊二さん(フランス・パリ在住)の作品を集めた企画展「早川俊二の世界展―遥かな風景への旅」が、酒田市美術館(石川館長)で開かれる。

 早川さんは1950年生まれ。73年に東京・創形美術学校を卒業。翌74年に渡仏してパリ国立美術学校に学んで以来、同国を中心に創作活動を行っている。81年にはパリでムフレ賞を受賞、デッサン4点が同校のコレクションに入るなど海外で高い評価を受けているほか、日本国内でも数年に1度、個展を開催している。

 今回は、昨年6月に故郷・長野を皮切りにスタートした国内展の一環。新たに制作した油彩を含め作品計68点を展示している。最近作「白い陶器群」はペインティングナイフによる傷がキャンバスの所々に付き、これがモチーフの陶器群に絶妙な質感をもたらしている。「クレマンスの肖像」と題した作品は、遠くを望む女性の視線の柔らかさが印象的。来館者は作品の前で足を止め、じっくりと見入っていた。

 竹田さんを招き講演会

 展示は今月26日まで。同10日午後2時から同美術館展示ホールで記念講演会が行われる。元日本経済新聞社文化部編集員で現在、多摩美術大学客員教授を務める竹田博志さんが「早川絵画の東洋性」のテーマで講演する。入場料のみで聴講できる。定員は50人で、当日午前9時から受付で整理券を配布。問い合わせは市美術館=0234(31)0095=へ


『荘内日報』2016年1月20日

「時評」58   石川好

 

 新年明けましておめでとうございます。と言っても1月後半なのに、日本は全国的に暖かい日が続いている。今年も地球温暖化が話題になる一年を感じさせる初春だ。

 ところでこの1ヶ月の本誌を読んでみると、そこは新年らしく、市議会も民間人も庄内地方の発展や企画が多く掲載されている。やはり新年は人の心をわくわくさせる何かがあるようだ。であれば酒田市美術館としても、新年の抱負を紙面を借りて述べさせていただくことにする。

 酒田市美術館は平成9年に開館し、以来18年目の昨年の7月、100万人の入館者を記録した。18年で100万人ということは年平均5万5000人強。酒田市の人口が10万人強。単純計算すれば総人口の2人に1人は当美術館に足を運んでいることになる。

 人口10万人強の酒田市には、当美術館以外にも土門拳記念館と本間美術館もある。このような小都市は日本では珍しいのである。それだけ庄内地方、とりわけ酒田という町が、芸術や文化を理解する行政と市民に支えられた土地がらであることの証明だと思われる。

 来年開館20年を迎えるので今年はその前年祭というわけでもないが、本来なら1月は美術館そのものが半ば休館するのが通例ではあるが、今年に限っては小さな企画を三つ立てた。

 一つ目は、この18年間、当館で開催された130余りの展覧会の全てのポスターを展示し、当館開催全ての展覧会を回顧することで、これからの10年、20年を展望することにした。

 二つ目は、フランス在住の早川俊二氏の作品展である。この展覧会は、当館の年次計画にはなかったのではあるが、早川俊二氏の熱烈なファンの方が当館を訪れ、企画展として持ってこられたものである。筆者はそれまで不明にも早川俊二氏のことは知らなかったのだが、持ち込まれた図録を見て、ぜひやりましょうと決めた。

 日本の美術界では知る人ぞ知る早川氏の作品は、人物であれモノであれ、全てが無から立ち現れる極限として立体感を伴って見る者の視覚を射る。しかし更に凝視すると、無から立ち現れた極限のシャッターチャンスを描いていたはずなのに、その現れた人物やモノは、実のところ無に向けて消えていく始まりではないのか、という幻覚を見る者に起こさせる。つまり、万物の生成と消滅の繰り返しあるということを一枚のキャンバスに氏が苦心して創り上げた絵の具の色で描いたのである。

 早川俊二という異色の画家の展覧会を開催できたことは、当館の歴史の一ページを作ったものだと自負している。

 三つ目は、当館の宝である文化勲章受賞画家森田茂氏の作品群の前で「『黒川能作品』と楽しむ新春『能楽』の世界」と題したイベントを1月17日に開催したことである。森田氏の作品は新田嘉一の寄贈によるものだが、黒川能を描いたその作品の前で、観世流の能楽師西村高夫氏らが実演した。庄内地方は能楽愛好家が多くいると伝え聞いていたが、80人近い方々にお集まりいただけた。こんな企画は当美術館以外のどこでもやったことがないのではないか。これは実にぜいたくな企画だとひそかに館員一同自負している。

 こうした小さな企画を1月に連続して実行した。これも全て、酒田市民が当館を育ててくれたことに対する恩返しの企画であったと思っていただければこれほど嬉しいことはない。早川俊二展とポスター展は1月26日まで開催しています。お見逃しなきように。

 本年もよろしく酒田市美術館の年間企画をお楽しみいただきたい。

 

(作家・酒田市美術館館長)


『酒田市美術館』 2016年4月6日

早川俊二の世界展を終えて~広がるアート・コミュニケーション     熱海 熱

 

 今回の早川展の最終開催会場である酒田市美術館の展覧会も1月26日に盛会のうちに無事終了を迎えることが出来た。

 先に巡回となった長野、札幌、新潟の開催ではそれぞれに個性的な会場に作品が展示され、会期中には講演会等のイベントで賑わいを見せていたので、酒田での開催は、東北地方の冬期間にどれほどの来館者と注目を集めることができるか、一抹の不安を抱えてのスタートでもあった。

 今振り返れば、会期中に竹田博志氏の記念講演会や早川さんのギャラリートークなどのイベントを通して多くの方々に早川作品の紹介が出来たこともあり、多数の来館者を数え、好評のうちに展覧会を終えることが出来たことを、非常に嬉しく感じている。

 美術館作品、特に絵画を鑑賞するということは非常に個人的な行為であり、鑑賞者が作品と対峙してイメージを膨らませ、そこから絵画との1対1の対話が生まれるものである。早川さんの作品は、既に多くの方々が語られるように、観る者を作品に引き込む魅力を備えている。

 今回の展覧会の挨拶パネルには、次のように記載されていたことを思い出した。

「よき絵画とは私たちにとって何でありましようか。それは、私たちの心の内との対話を可能にするものではないでしようか。心を写す鏡とも言えます。よき絵画は多くの人の眼を引きつけ、記憶され、語り継がれ、時代を超えて行くことでしょう。」

 美術館関係者としての立場でこの言葉を拝見した時に、ふとアート・コミニュケーションという言葉が思い浮かんだ。

 早川さんは、時間の許す限り、酒田に滞在し展覧会場への来館者や、美術館スタッフ、メディア関係者の方々とご自身の作品や芸術観について熱く語られていた。普段の展覧会では、展示室内は、静寂に包まれ、図書館で読書に没頭するように、来館者は作品鑑賞に没頭しているが、早川展では展示室内の雰囲気がいささか異なっていた。

 アート・コミュニケーションとは、作品との対話もその一形態ではあるが、作品を通じて美術館内で人と人とが繋がり、それが地域へと広がりをみせる。その様な理想的なコミュニケーションの広がりを、経験した稀な展覧会でもあった。

 きっと、挨拶パネルに記載されていた「よき絵画とは」の問いに、今回の巡回展を通して、来館されたお客様や関係者の方々が答えられ、そして語り継がれる展覧会となったのでは、と感じている。

 最後に、今回貴重な経験をさせて頂いた、早川さんご夫妻、同窓生の皆様、そして展覧会の開催にご協力を賜りました関係者の皆様に、心より感謝と御礼を申し上げたいと思います。

                                   

酒田市美術館 学芸主幹

2016年4月6日